
2025.8.6
不定期連載「コラボの原産地」第34回です。
コラボレーション商品を紹介することを口実に
作家さんやアーティストさんと制作秘話を対談する企画です。
今回はグラニフで3度目のコラボレーションとなる
漫画家・松本大洋先生に書面でインタビューさせていただきました。
インタビュアーを務めるのはグラニフのコラボレーション担当の中島です。
今回特別に描き下ろしていただいた『鉄コン筋クリート』の新作イラストの制作工程や、
『ピンポン』のアイテムにまつわる裏話など、貴重なエピソードが盛りだくさん!
是非最後までご覧ください。
松本大洋先生スペシャルインタビュー

今回のコレクションについて
Q12018年、2021年に続き今回で3回目のコラボレーションとなります。
グラニフから新しいコレクションを企画したいと聞いた時、率直にどう思われましたか?
松本先生(以下、敬称略)グラニフさんにはいままで2回もお声をかけていただいていて、僕の漫画は誰もが知っているようなメジャーな作品ではないですし、また作りたいと思っていただけることがありがたいなと、うれしかったです。
Q2今回の企画ではこれまでよりも密に松本先生と意見を交わしながらデザインを作ることができ、おかげさまでとても素敵なコレクションが出来上がりました。
企画当初より、「僕からの希望を以前よりもう少し多くお伝えさせていただきたい」とコメントを頂戴していましたが、今回のコレクションはご希望を叶えられていますでしょうか?
どういった点を重視したご希望だったか、改めて伺えますでしょうか?
また、これまでよりもさらに先生ご自身の希望を伝えていきたいと思われた理由をお伺いできますと幸いです。
松本今までグラニフさんに作っていただいたアイテムを拝見していて、素人の自分が意見を言うことも違うかなという気持ちがあったのですが、ご一緒できるのも今回で3回目になるので、せっかく作っていただけるならと思いご相談させていただきました。
打ち合わせを重ねて行くと、絵を描いた人間としては「この絵のこの部分がうまくいかなかったな」とか「ここだけ切り取って模様として使ってもおもしろいのでは?」など絵を素材としてドライに見てしまいがちなのですが、グラニフさんはアイテムの中にも作品のストーリー性を重視して大切に作ってくださっているんだ、とその違いに気づくことができ、おもしろかったです。
自分ではシンプルなデザインを好むので、刺繍やプリントであちこちにキャラクターを小さく入れていただいたりする楽しい遊びの部分も、これなくても良いかな?などと思ってしまいがちだったのですが、「着て下さる方たちはこういう部分を喜んでくれるんですよ」と教えていただいて、そうなんだ〜とそういう視点もとても勉強になりましたね。
Q3今回のコレクションの中で、特にお気に入りのアイテムはありますか?
松本アイテムとしては
クロ シロ の刺繍Tシャツ
鉄コンのシャツ
ピンポンの月星のTシャツ、靴下
などでしょうか。

Q4クロとシロが対になったTシャツは先生のアイディアをもとに生まれたデザインですが、このアイディアを思いついた背景を教えてください。

松本このラフをお見せした時は こういうデザインで作ってくださいというつもりではなくて、こんな感じにひとコマの中からシンプルにクロやシロを使っていただいてもおもしろいのでは?という一例としてのつもりだったのですが、とても可愛いTシャツに仕上げてくださって嬉しかったです。
Q5ピンポンのデザインについて、初めにグラニフからご提出したデザインでは星と月を全て赤色にしていたところ、先生から「深緑やライトグレーなどの色にするのはどうか?」というアイディアをいただきました。
我々は読者として「ピンポンといえば赤と白」というイメージが強かったので、我々からキーカラーを変えるのは躊躇してしまうところがありましたが、実際に深緑色にしてみたところ落ち着きが出て洋服としてさらにかっこいいデザインに仕上がりました。
先生がキーカラーを変えた方が良いと思われた理由について、改めてお伺いできますでしょうか?
松本ありがたいことに赤色の月星マークやロゴで今まで何度もグッズを作っていただく機会があって、自分としても愛着はあるのですが、連載当時から20年以上経って見てみると、この真っ赤の熱量が高すぎるように感じて..今回アイテムを作っていただくにあたり、日常着のデザインとしても作品の顔としても、もう少し現代の空気感やテンションに馴染むような身に着けやすい色にできたらいいなと思ったので、深緑色と他の候補の色を何色かお伝えしてご相談させていただきました。作者の勝手な希望をお伝えしてご迷惑かなと心配でしたが、こちらの意図を汲んで取り入れていただけて感謝しています。

描き下ろしについて
Q6今回、鉄コン筋クリートのクロとシロをテーマにした新作のイラストを描き下ろしていただきました。
宙を舞うような二人が印象的な作品ですが、どのようなきっかけでこのイラストが生まれたのでしょうか?
松本今回の描き下ろしは、クロとシロを全身で・動きがあること・猫・などのご希望をグラニフさんからいただいていたので、その条件で考えました。ただ、描いた絵を実際にアイテムにプリントしていただいてサンプルで拝見してみると、全体の淡い色合いのバランスが印刷で表現していただくことがむずかしい絵になってしまったかなあ..と少し反省がありました。
でも何度もサンプルをだしてくださって、最終的に素敵なものに仕上げていただけてありがたかったです!
描き下ろし作品の作画工程を公開!
今回コラボレーションのために描き下ろしていただいた「クロとシロ 飛ぶ」の貴重な作画工程をお写真でいただきました。
① ラフ
② 線画

③ 着色
メインで使う色を決めます

画用紙全体にグレーとベージュで薄く下地を塗った後、下絵をトレースして重線を引きます

Q7コミックス連載時のイラストを使ったアイテムと今回の描き下ろしイラストを見比べながら、松本先生のタッチの変化を感じられるのも楽しみのひとつかと思います。
鉄コン筋クリートを連載されていた1990年代当時と比べて、優しい色使いやタッチが増えている背景には、どのような理由があるのでしょうか?
松本特に若い頃は自分の絵を下手だな〜と感じることが多く、上手くなりたいと思いながら絵を変えて漫画を作り続けてきたこともあって、当時の絵を再現することがなかなか難しいです。最近は少しずつ、当時の絵にもその時しか描けなかった勢いがあってそれぞれの良さがあるなと思えるようになりました。
絵柄や色使いについては、描いている自分自身の年齢からの影響もあると思いますが、その時々の社会全体の空気感のようなものにも影響を受けているかなあと思っています。
当時の絵のクロとシロの小意地悪い感じが好きなのですが、今描くと優しい雰囲気になってしまって。また意地悪そうなクロとシロも描いてみたいですね。
Q8描き下ろしイラストのクロとシロは作中と同じ人物として描かれたのでしょうか?
それとも、別の世界を生きるクロとシロですか?
松本自分では同じ世界のクロとシロのつもりで描いた絵ですが、そう言われて見てみるとそんなふうにも見えますね。
ーーー 個人的な感想としては、優しいタッチで描かれた二人がコミックスから時を経て子供らしく生きられるようになったみたいで素敵だなと感じました。
松本そう感じていただけたら嬉しいです!
Q9今回の描き下ろしイラストで特にこだわった点についてお伺いできますと幸いです。
松本2人を飛ばしたいなあと思って、そこにこだわって描きました。
先生ご自身のことについて
Q10前回コラボレーションさせていただいた2021年から、先生の中で何か変化はありましたか?
松本「東京ヒゴロ」の連載が終わって、現在は他の作家さんとコラボレーションという形で漫画を描いています。初めてのことも多くて、時間がかかりますが楽しい作業です。来年には発表できる予定なので、よかったら皆さんに読んでいただけたらうれしいです。

Q11今後またコラボレーションをさせていただける場合、発売されたら嬉しいアイテムはありますか?
松本パジャマと靴下、それから誰も買ってくれないと思うのですが(笑)「東京ヒゴロ」の長作の着ている編み込みセーター、でしょうか。
Q12最後にこの記事を読んでいるファンの方々へメッセージをお願い致します。
松本今回もグラニフさんにとても丁寧に作っていただいたアイテムばかりなので、気に入ってもらえるものや楽しんで身につけてもらえるアイテムを、いろんな方にみつけていただけたらとても嬉しいなあと思っています。
ここからは松本大洋先生のコメントと共に
各作品ごとのコラボレーションアイテムをご紹介
オリジナル描き下ろし
『クロとシロ 飛ぶ』

今回のコラボレーションのために新しく描き下ろされた、『鉄コン筋クリート』に登場するふたりの特別なアート。
宝町でネコと名の通った少年クロとシロが宙を舞う様な姿が印象的なデザイン。ふたりを思わせる黒ネコと白ネコも一緒に描かれています。

松本大洋先生 コメント

① クロとシロ 飛ぶ|Tシャツ
今回描き下ろした、クロとシロが飛んでいる絵です。さわやかなTシャツに仕上げていただけました。
② クロとシロ 飛ぶ|裏毛ジップパーカー
カラーイラストの下絵に使った線画を、はみ出すように大きく拡大して背中のプリントに使っていただいています。猫たちの刺繍の位置も、工場の方とグラニフさんでぎりぎりまで調整して下さって感謝しています。
③ クロとシロ 飛ぶ|ステンレスボトル
このボトルは背景の色を変えたりして何パターンも試作品を作ってくださって、ありがたかったですね。その中からグラニフさんと相談してこちらの色になりました。
④ クロとシロ 飛ぶ|2WAYトートバッグ
こちらもイラストのサイズを大きく、はみ出すように入れていただきました。デザイナーさんが内側のポケットに猫を入れてくれました。
世代を超えて支持される代表作
『鉄コン筋クリート』

松本先生のアイディアをもとにシロとクロの線画を刺繍で表現したTシャツや、パッケージにもこだわった2枚セットの長袖Tシャツ、画集『TAIYOU』に収録されたアートワークが大胆にプリントされたシャツなど、白と黒を基調としたラインナップ。

松本大洋先生 コメント

① 96|ビッグシルエットTシャツ
② 46|ビッグシルエットTシャツ
簡単に描いたラフから、グラニフさんにとても素敵に仕上げていただいて感謝です。正直、昔描いた絵はどれも自分では恥ずかしくて客観的に見られないのですが、このTシャツは刺繍も糸の配色も可愛くて、アイテムとしてとても気に入っています。
③ ネコ|ルーズフィットシャツ
このイラストは確か鉄コンのアニメ化の際に雑誌の表紙用に描いたもので、自分でもとくに気に入っているクロとシロです。プリントの色もとてもきれいに出していただいて嬉しかったです。よく見ると、ボタンの中にイタチがいて可愛いです。
④ ネコとイタチ|2パックアイコン長袖Tシャツ
胸の刺繍が可愛いシンプルな着やすいTシャツ。パックの袋も元気で楽しいなと思いました。
⑤ 夜の散歩|ボクサーパンツ
風が吹いている夜のパンツ、という感じが鉄コンぽくて世界観にとても似合っていると思います。
⑥ 夜の散歩|ミドルソックス
こちらもピンポン同様、ジャカードで漫画の雰囲気を良く表現していただいていて可愛いです。この当時の僕の線画は(現在の絵柄と比較して)ジャカードや刺繍で表現しやすいのかな。
卓球漫画の金字塔
『ピンポン』

ペコとスマイルを、それぞれの象徴である“星”と“月”のモチーフに配したTシャツをはじめ、ペコ、スマイル、アクマ、ドラゴン、チャイナ、バタフライジョーたちの対戦をパターン柄でプリントしたブルゾンやハットなどが登場。あえてグリーンであしらったロゴやモチーフが印象的なアクセントに。

松本大洋先生 コメント

① ピンポン|リバーシブルバケットハット
黒いコットンに深緑色の刺繍がよく合っていて好きです。内側のプリントも遊びがあって楽しいですね。
② ペコとスマイル|ハーフジップ長袖Tシャツ
深緑色のロゴ刺繍と背中の月と星が控えめに映えて、全体の中でも優しい雰囲気のアイテムかなと思います。
③ 星と月と|Tシャツ
黒地に浮き出る深緑色の月星のバランスがかっこ良くて、いろいろな方に着ていただきやすいTシャツかな?と思います。よく見るとペコとスマイルが月星の中に配置していただいてあるのも、さりげなくて素敵ですね。
④ 星と月と|リバーシブルブルゾン
こちらも黒地に深緑色の刺繍とアップリケがかっこいいですね。内側のプリントもシブいです。
⑤ ペコとスマイル|ミドルソックス
白っぽい靴下の色に緑のロゴと月&星のバランスが可愛いですね。漫画の線の揺れている雰囲気もよく出ていて、ジャカードでこんなに細かく漫画の絵を表現できるんだ!と驚きました。
少年時代の自伝的漫画
『Sunny』

「星の子学園」で生活する春男、静、純助、そして園で飼われている犬のくりまるを描いたデザインのTシャツ。星の子学園のみんなが「サニー」と呼び、子どもたちの基地になっている車をモチーフにしたボトムス、キャップも。

松本大洋先生 コメント

① Sunny|パラシュートパンツ
表からは見えないウエストの内側やポケットの中にSunnyの世界をプリントした生地が使われていて、デザイナーさんの楽しいこだわりを感じました。
② Sunny|キャップ
こちらも刺繍が可愛いですね。
とくにデザイナーさんが入れてくれたつば裏のプリントの入り方がかっこいいなと思いました。この絵をこういうふうに使ってくれるんだ!とおもしろくて嬉しかったです。
③ 星の子たち|Tシャツ
星の子たちのちょっと憂鬱な朝の登校の様子を描いた、自分でも気に入っている絵です。
漫画の世界を通して描く創作哲学
『東京ヒゴロ』

30年勤めた出版社を退職した塩澤和夫が、傘を差そうと広げた瞬間に強風にあおられ、その傘が空へと舞い上がっていく印象的なシーンをTシャツに。

松本大洋先生 コメント
傘|Tシャツ
塩澤さんの持っていた傘が夜空に飛ばされて行く、漫画の中の1ページをとてもきれいにプリントしてくれました。この場面を選んでくださるんだ、とおもしろかったです。バックの首元のロゴの色も好きです。
Profile

松本大洋
1967年東京生まれ。漫画家。作品に『花男』『鉄コン筋クリート』『ピンポン』『GOGOモンスター』『ナンバーファイブ吾』『竹光侍』(作 永福一成)『Sunny』『ルーヴルの猫』『東京ヒゴロ』(すべて小学館)など。
絵本『かないくん』(作 谷川俊太郎)『こんとん』(作 夢枕獏)をはじめ、装丁・挿絵を多数手がける。
『鉄コン筋クリート』は2008年最優秀日本作品としてアイズナー賞を受賞。
撮影:村本祥一<BYTHEWAY>